命の存在はどこにあるのか、東野圭吾に問われている映画です。
瑞穂を演じる子役、稲垣来泉の透明感が悲しさを倍増させています。
日常が一変したとき、あなたは何を望むでしょうか。医学、科学、法律について考えさせられます。
見どころは、母役の篠原涼子の演技でしょう。
皆さんは、遠慮なく泣いてくださって結構です。
目次
「人魚の眠る家」あらすじ
人間が生かされる恐ろしさ。そういう時代に突入している、衝撃の映画です。
和昌と薫子は、離婚を予定している別居中の夫婦です。
家族でいるのは、娘瑞穂の私立小学校受験終了まで。
ある日瑞穂は、千鶴子(薫子の母)と美晴(薫子の妹)、若葉(美晴の娘)とプールに出かけます。
若葉が水中で失くした指輪を探していた2人。瑞穂は排水溝で溺れてしまい、病院に運ばれるのです。
脳死状態になった瑞穂に、医師は臓器提供を持ちかけます。「瑞穂は生きている」と信じたい薫子は、それを断り、自宅で瑞穂介護の日々を積み重ねていきます。
自分のせいで夫婦仲をこわしてしまった和昌は、子育てに口出しできず、苦しみと葛藤します。
心臓移植を待っている知人の子供の命と、瑞穂の命の存在価値を比べてはいけないけれど・・。
和昌が社長を務める会社ハリマテクスは、医療機器のITメーカーです。自分にできることをしようと考えた和昌は、会社の研究者星野の力を借り、瑞穂の健康管理を試みます。
星野の持ち込んだ機械で、瑞穂は良い状態を保つようになります。薫子と瑞穂の元に通い、もっと、もっととエスカレートしていく星野。
星野は電気信号を使い、意志のない瑞穂の神経を動かします。
娘の健康管理をする薫子は、星野の指導により、機械を動かすようになります。
和昌が持ってきたぬいぐるみを、両手で受け取り笑顔を見せる瑞穂。意識はありません。動かされているだけなのです。
人間とは何か、生きているとはどういうことか。
機械の力で生き続ける瑞穂の身体は、成長していきます。介護に明け暮れる薫子と、家族親戚たちの心にある矛盾が広がっていきます。
瑞穂の誕生日会に友達を呼ぶように言われ、弟の生人が泣き出します。
「友達呼びたくない」
ハリマテクス会長である多津朗(瑞穂のおじいちゃん)に、
「人間が踏み込んではいけない分野に、踏み込んでいないか」と言われる和昌。
それぞれの思いの中、時間は過ぎていきます・・・。
「人魚の眠る家」監督・キャストなど
2018年公開
監督・・・堤幸彦
脚本・・・篠崎絵里子
原作・・・東野圭吾
キャスト
播磨薫子・・・・篠原涼子
播磨和昌・・・・西島秀俊
星野祐也・・・・坂口健太郎
川島真緒・・・・川栄李奈
美晴・・・・山口紗弥加
進藤・・・・田中哲司
播磨多津朗・・・・田中泯
千鶴子・・・・松坂慶子
播磨瑞穂・・・・稲垣来泉
播磨生人・・・・斎藤汰鷹
宗吾・・・・荒木飛翔
第42回日本アカデミー賞 優秀主演女優賞受賞(篠原涼子)
キャストについて
瑞穂を演じる子役、稲垣来泉は、2019年ドラマ『TWO WEEKS』で三浦春馬の娘役です。
「あっ、あの子だ。こんな喋り方、こんな声だったんだ」と、この映画を思って見てしまっていました。
2020年8月公開映画『糸』では、菅田将暉の娘役も演じています。
薫子を演じる篠原涼子の、後半の演技が泣けます。ハケンの品格の春子とは別人。
こんな演技する女優さんだったかなぁ。目線を変えれば狂ってる、でも母としては決して狂ってない、そんな彼女は日本アカデミー賞を受賞しています。
夫の和昌を演じる西島秀俊の、彼ならではの独特の重厚さを、感じてもらえたらうれしいです。
自分のダメさとプライド、良心の中で悩む姿にがいい。男のカッコ良さですね。
同じように、人生家庭うまくいかない夫を演じている、2015年ドラマ『流星ワゴン』の一雄を思い出しました。
シーンは少ないけれど、和昌の父でありハリマテクスの先代社長役、田中泯の存在感がスゴいです。
年老いた祖父だからこその叫びが、カッコよくもあり悲しい。
科学にのめり込んでいく星野役の坂口健太郎も印象的です。どんな役もサラリとこなす俳優さん、正義感あふれる役が似合っています。
2020年、ユニクロのCMがカッコイイ。チラリと映ってるバイク。バイク免許持たれてるようですね。
秋ドラマ「35歳の少女」で、望美(柴咲コウ)を支える結人(ゆうと)役を熱演中です。
主題歌
あいことば・・・・絢香
エンディングで流れる「私はあなたと、ずっとずっと~」で、涙があふれます。
この曲の壮大さと、“ 透明な愛言葉 ” という歌詞が美しく、映画の世界とマッチします。
絢香も母なんです。
人類の未来を訴えるような歌詞、美しいメロディー、ややハスキーな歌声が染(し)みますよ。席はあわてて立たないで。
「人魚の眠る家」ネタバレ・感想
私は母を経験してないんだけど、母だったら、どうしただろうと考えます。
この夫婦の不幸について
- さっきまで元気だった娘が事故にあい、一瞬にして別人のようになってしまったこと。
- 夫が科学の最先端、医療機器メーカーの社長であったこと。
- 裕福な家庭であったこと。
- 離婚予定の夫婦であったこと。
植物状態となった瑞穂には弟がおり、その小さな男の子の葛藤が悲しい。
子供のドナーを待つ知り合いに、匿名で寄付をする和昌の、やり場のない心。
医学の進歩で、現状を維持し続ければ、いつか‥いつか元の娘に会える。
そう思う事で、自分の生活、精神状態を保つ事ができている母の「光に向かう気持ち」は罪でしょうか。
「こうすれば、法が答えをくれる?」と、薫子が包丁を振り上げるシーンは、辛すぎます。
篠原涼子は私生活でも2人の母ですが、母の強さを感じさせ、緊迫した演技は壮絶です。
薫子の母、妹、瑞穂と一緒にプールに行った従姉妹の若葉。
登場人物、皆が悲しみの中にいる。
普通の家庭のはずなのに、ひとシーン、ひとシーン、心が締め付けられます。
引き込まれるシーンです。
医療機器開発、研究に携わる科学者星野の心も悲しいです。
社長に頼まれただけなのに。
こういう機械が、ここにあるのに。
薫子の気持ちを理解し応援するあまり、自分の能力を駆使し最大限使うって当たり前かも。
それが瑞穂のリハビリにもなり、薫子の希望の光になり得る喜びに、突き進んでしまう。
この映画を観ると
生活していく、生きていく上で『正しい、間違っている』って、2択じゃないよなぁと思います。
生きている者が心の整理をつけていくって、時間がかかる。
でも、時間が解決してくれることもあるのかもね。
こんな人におすすめ
母であることに視点をおいた作品だけれど、大切な人がいるすべての人におすすめ。って思います。
家族でも、家族じゃなくても、この映画のどの人の立場であっても、考えることは多いから。
だれかの幸せを願う、すべての人に観てほしい映画です。
まとめ
バラを飾った瑞穂の姿は美しく、幻想的です。
人間と医学、科学、法律を問う、この作品は大変見応えがあります。
でも倫理なんて、実は意味のない事なのかもなぁ。
俳優さんたちの重厚な演技が、作品をよりリアルにしていると感じます。
篠原涼子の「法が答えをくれる?」のシーンは、震えます。
作者とは違い、私は泣けましたよー。
とっても温かく、とっても悲しい映画です。
いつもながら、奥の深ーい東野圭吾作品、おすすめです。
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